付加価値をつけるのはアナログの技!

2019/02/08

ここまでの話で「作る」はデジタルが、「適合」はアナログが担うという役割分担が明確になったと思います。

 義肢装具士のデジタル化とは、すべて機械に任せることではありません。また、デジタルによる業務の効率化そのものも目的ではありません。そろそろ「しつこい」と感じるかもしれませんが、ここは絶対に誤解してはいけない部分ですから、繰り返し述べさせていただきます。

 デジタル化の目的は、情報の蓄積、共有化、データベース化、エビデンスの確立なども含めて「患者(または顧客)に適合するモノを作る」という最終ゴールに効率よくたどり着くための手段です。

 もしかしたら遠い将来には「適合」すらもAIが担うようになるかもしれません。

 しかし、そのような時代がきても、義肢装具士という仕事はなくならないと考えています。

 たとえば、アンケートに答える形式の「適職診断サービス」のサイトを最近よく見かけます。どういう仕組みで判定されているのか詳しくは知りませんが、おそらく心理学分野の知識や、ビッグデータの情報から「こういう性格や傾向をもつ人物は○○職に向いている」という法則が構築されており、ユーザの回答から属性を判断するプログラムが組まれているのでしょう。

 その判断は統計学的には正しいものかもしれません。しかし統計上正しくとも、人間はデータではありません。アンケートの回答も、その日の気分で変わるものです。そのため、どれだけ「当たる!」と言われたサイトで診断しても、その結果を見てすぐに就職活動や転職活動を始める人はいないはずです。

 もし付き合いが長く、自分のことをよく理解してくれている友人がいれば「ネットの適職診断で○○に向いてるって出たんだけど......」と相談すると思います。

 そこで、その友人から、

「確かに、私もその通りだと思う」と言われたとき、あなたはどう感じますか?

 逆に「あなたは△△な面があるから、あまり向いてないんじゃないかな」と言われたとき、どう思いますか?

 自分のことをよく理解してくれる友人に「向いている」と言われたら「やっぱりそうなのかな、それならしっかり考えてみようかな」と、前向きに検討し始めるのではないでしょうか。

 逆に「向いていないよ」と言われたら「そうだよね、所詮無料のネット診断だし」と、友人の意見を優先するでしょう。

 これと同じで、機械がすべて自動で計測した後「あなたの断端の形状はこのようになっていて、痛みを感じるレベルはこれくらいだから、これだけの余裕を持たせて設計しました」と、コンピュータに淡々と説明されても、患者さんはおそらく、とくに満足も不満も感じないでしょう。

 いっぽう、同じ人間である義肢装具士が、自分の体に触れて、自分の言葉に耳を傾けて、自分のために一生懸命考えて設計・製造してくれたなら、自然と「ありがとう」という気持ちが生まれると思います。

 あらゆるモノを自動的に作れる時代がきたとき、その「モノ」には大した価値はありません。モノに付加価値をつけることができるのは、人間が持つアナログの技術なのです。

◎この章のまとめ

・現代は第4次産業革命を迎えている。工場での製造は人間ではなくAIが管理する機械が担うようになり、製造業の姿が大きく変わり始めている。

・AI研究者のマイケル・A・オズボーン准教授が発表した論文『雇用の未来』によると、20年後には半分近くの職業がAIで代替可能になり、消えていく。そのなかで義肢装具士は「消えない仕事」の第7位であり、患者のメンタル面を支えるアナログ技術が重視されている。