デジタル化が進む世界の義肢装具業界!

2019/01/31

「製造業がデジタル機器を導入して、どんどん自動化を進めているのは知っているけれど、うちは今のところ受注が安定しているから、しばらくはこのままのやり方で問題ないだろう」
 そう思った方は、ご注意ください。先の先まで見通して準備をしなければ、すぐに新しい時代がやってきて、あっという間に取り残されてしまいます。
 たとえばスマートフォンが初めて販売されたとき、ここまで短期間で普及すると予想していましたか?
「便利そうだけど、今すぐは必要ないから、あと数年は携帯電話のままでいい」と思っていたのに、周囲の人々がスマートフォンを持ち、LINEなどのアプリを使ってコミュニケーションを取るようになって、急いで購入しませんでしたか?
「時代の変化」は、これまでと比較にならないスピードでやってきます。
 日本ではあまり見かけないかもしれませんが、海外の義肢装具業界では、すでにデジタル化が進んでいます。
 OT WORLDという、1973年から2年ごとに開催される世界最大規模の義肢装具とリハビリ工学の国際見本市を、ご存じでしょうか。 
 2016年のOT WORLDには、約500社の企業が参加しました。その中心になっていたのは、デジタル技術を活用したインソール製作でした。出展企業の約半分がインソール製作に関わるCAD(computer-aided design)やCAM(computer-aided manufacturing)、3Dスキャナー、3D切削機や3Dプリンターなどを展示していたのです。

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 これらのデジタル機器を最大限に活用すれば、自分の足にぴったり合うインソールが、わずか1時間で完成します。そのようなシステムが、海外の義肢装具業界ではすでに実用化されているのです。素材やデザイン、設計方法も大きく進化し、今まで見たことのない斬新なインソールが数多く展示されていました。
 インソールだけではありません。コルセットや義肢のソケットも、デジタル技術を用いて製造できるようになっています。3Dスキャナーのなかには、採型した石膏の内側の形を読み取ったり、服の上から全身をスキャニングできるiPadのような端末を利用した薄型・小型機器タイプもありました。測定すべき部位の形を読み取り、パソコンで設計をして、3Dプリンターでモノを生み出すという方法です。
 とくに3Dプリンターは、日々進化しています。モノを立体的に製作する3本の軸(X軸・Y軸・Z軸)の制御技術が高度化し、より複雑な動き、複雑な形を再現できるようになりました。加えて出力速度も向上しました。
 これまで3Dプリンターは、製品や部品などの試作品やモックアップを用意するために使われていました。しかし、今は違います。製造業では産業用ロボットとして活躍したり、製品そのものを作れるほどになったのです。
 3D切削機も同じように動作速度が上がり、生産性が向上しています。また、軽金属の切削にも対応できる機器が増えてきたため、より幅広いモノづくりが可能になってきました。
 こうしたデジタル機器とシステムを使えば、たとえば1台の車に3Dスキャナー、CAD/CAM、3D切削機や3Dプリンターなどを積み込み、電話一本で顧客の自宅や職場に赴いて、その場でインソールを作って販売する、というサービスも可能になります。実際OT WORLDでは、インソール製造に必要なデジタル機器をすべてコンテナに搭載したモデルが紹介されていました。
 ただし、デジタル機器によって患者の体の形を素早く正確に測定できるようになり、機械がその形に合う義肢や装具を自動的に作り出せるようになっても、義肢装具士にとって重要な仕事はその後にあります。