20年後も生き残る秘訣!

2019/02/08

では、インダストリー4・0が実現したときの義肢装具業界は、どうなっているでしょうか。

 たとえば現在は右の小指の義指を作るとき、左の小指で型を採り、写真を撮り、左右対称になるよう形を整え、本人の指とそっくりになるよう着色して、さらに産毛の1本1本まで丁寧に手作業で作ります。

 しかし3Dスキャナーと3Dプリンターの進化により、これらの作業はデジタル機器によって全て自動的に進むようになるかもしれません。すでに自動化が実現しているインソールやコルセットはもちろん、繊細な作業であるためアナログで行っている義手や義足の製造なども、すべてデジタルで代替可能になるかもしれません。義肢装具士は将来「発注を受けて義肢や装具を製造する」という工程から外される可能性があるのです。

 しかしそれでも、デジタルにできるのは「作る」ところまでです。

 患者さんの身体に違和感なく装着されるよう、どこをどう直すべきかを患者さんとのコミュニケーションによって探っていく「適合」は、生身の人間である義肢装具士にしかできません。

 

 序章で少し触れましたが、AIの研究者であり、英国オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が2013年に発表した論文『雇用の未来』が、一時期たいへん話題になりました。

 オズボーン氏はコンピュータ技術の革新とビックデータの活用により、これまで非ルーチン作業と思われていた業務のルーチン化が可能になりつつあること、そのため人間が行う仕事の約半分が、近いうちに機械に奪われてしまうことを説いています。

 具体的には、米国労働省が定めた702の職業を対象に、今後10〜20年程度でコンピュータによる自動化が可能になるかどうかを調査・分析し、米国の総雇用者約47%分の仕事が「自動化されるリスクが高い」という結論を出したのです。

 たとえば機械に奪われる確率が最も高い職業として「銀行の融資担当者」が挙げられています。事実、世界最大級の投資銀行である米国のゴールドマン・サックスでは、かつてニューヨーク本社で約600人のトレーダーが株式の売買を担っていましたが、2017年にはわずか2名まで減り、現在はほとんどの取引を自動株取引プログラムが担っています。

 また医療分野でも、米国の大手コンピュータ関連会社IBMが手がけたAIが、約60万件の医療報告書、150万件の患者記録と臨床試験、200万ページ分の医学雑誌などを分析し、患者の症状や遺伝子、薬歴などから最良の治療計画を作ることに成功したといいます。

 ロボットが人間と同等の知性を手に入れるまでは、あと50年かかると言われていました。その過程で、現在人間が行っている仕事の多くを代替できるようになるということです。

 その一方で、オズボーン氏はコンピュータに代替されにくい仕事、つまり20年後も無くならない仕事について言及しています。

 それによると、無くならない仕事の第7位に、義肢装具士がランクインしています。

 他には「最前線のメカニック、修理工」「緊急事態の管理監督者」といった、システムを維持・管理する職業のほかに「レクリエーションセラピスト」「メンタルヘルスと薬物利用者サポート」「聴覚医療従事者」「作業療法士」「ヘルスケアソーシャルワーカー」などがあり、人間のメンタル面に深く関わる職業が挙げられています。

 義肢装具士も「モノを作る」という点においてはコンピュータによる代替が可能ですが、一般的な製造業で作られているモノ──たとえば車などと違うのは、義肢や装具が「体の一部になるもの」という点でしょう。

 義足は、装着することで患者さんの「立つ」「歩く」「走る」という運動機能を取り戻します。片足では崩れてしまう体のバランスを正常に戻したり、健足の負担を軽減することもできます。しかし義足が体に合わなければ、装着頻度が落ちてしまい、リハビリや退院後の生活に深刻な影響を与えてしまいます。

 ただモノを作れば良いというわけではなく、一人ひとりに合わせたきめ細かなケアが求められるからこそ、義肢装具士は20年後も無くならない職業なのです。