「満足度」を上げるのはアナログの技!

2019/02/08

稲垣社長は、いつも次のようにおっしゃっています。

「人間は朝と夜で、足の太さや硬さが変わります。痛みなどの感じ方も変わってきます。それは一人ひとりの生活スタイルや環境、思考や体の動かし方のクセのようなもので、将来的にある程度の予測や分類化が可能になっても、100%正しく予測することは不可能でしょう。

 義肢装具士の仕事で、デジタルに置き換えられる作業は、現在は約50%です。この数字も近い将来にどんどん大きくなり、アナログ作業の割合が減っていくと思われます。それでも、アナログ作業がゼロになることは、ありません」

 モノを作るまでの作業工程は、いずれ大部分がデジタル化されるでしょう。完成したモノを患者さんに仮合わせしてもらい、その後に行う調整も、高度化した未来のデジタル技術なら可能かもしれません。

 しかし序章で述べたように、デジタルは離散値です。1の次は2であり、その中間にある微妙な数は存在しません。「イエスかノーか?」と質問をしたとき、相手がイエスでもノーでもない微妙な答えを持っていても、どちらかで答えてもらわなければいけません。

 いっぽうアナログは「連続値」であるため、1と2の間にある無数の数字を読み取ることができます。人間である義肢装具士は、患者さんの言葉の裏の裏まで読み取り、表情や仕草、体の動きなどから心身の状態を推し量り、必要な調整を施すのです。

 ときには患者さんの「痛い」が、勘違いであることもあります。当たっていないのに「当たっている気がする」と主張する患者さんは、決して珍しくありません。そのようなとき、義肢装具士は患者さんの性格を熟考したうえで、言葉ではなくモノを通して「当たっていない」「痛くない」ことを伝え、認めてもらう努力をするのだそうです。

 患者さん自身が「自分の体にぴったり合った」と満足するとき、物理的な適合だけではなく、精神面がもたらす満足──つまり「自分のことを理解して、一生懸命考えて作ってくれた」という実感も含まれているのです。

 デジタルは患者さんの身体を測れても、心までは測れません。それは人間にしかできない仕事であり、この仕事が患者さんの満足度を大きく左右しているのです。