デジタル機器導入による効率化の実現!

2019/02/08

協和義肢製作所がデジタル化を実現するためには、2つの困難がありました。

 ひとつは機械やシステムを購入するためのコスト面の困難ですが、これは経営者が資金を調達できれば解決します。

 もうひとつの困難は、CAD/CAMを扱えるようになるための教育面の困難です。これは従業員の同意と協力なしには越えられません。

 現在、義肢装具士の養成課程にCADは含まれていません。大学や専門学校でも教えられる人がほとんどいないため、若い世代でも経験者が少ないのが現状です。

 CADをしっかりマスターするためには、毎日の仕事をこなしながら勉強もしなければいけないため、従業員の負担が大きくなってしまいます。DGPでは3日間のCADセミナーを行っていますが、ベテランの義肢装具士でも、一回のセミナーでは完全にマスターできません。

 協和義肢製作所の従業員の皆さんは、その壁を見事乗り越えました。今ではソフトに頼ることなく自由自在にCADを使いこなし、新たな工夫を加えたりして、より効率的に思い描いたとおりの設計を行っています。

 忙しい中、なぜここまでがんばれたのか、その原動力について尋ねると、次のような答えが返ってきました。

「自分がパソコンで設計したものが、切削機で削り出されて現実のものとして形になったとき『こういう設計にしたらこうなるのか』というものづくりの喜びと『じゃあこうしたら、もっと上手くいくかもしれない』という探究心が湧いてきて、それがモチベーションになっていました。たしかに勉強は大変でしたが、新しい手法のものづくりが、純粋に楽しかったのです」

 デジタル化とは「機械に任せる」ということではなく、手でやってきた作業を機械で行うということです。義肢装具士として患者さん一人ひとりに合うものを作るという信念や、ものづくりの喜びが失われるわけではないのです。

 また、日本はアメリカと比べて、切削機や3Dプリンターの技術が遅れています。DGPが開発していた切削機もはじめは再現性が低く、CAM設定を行えば自動的にインソールを削り出すものの、100%信頼できる状態ではなく、手作業によるチェックと仕上げが必要でした。

 材料の種類も限られていたため、DGPは新素材の開発にも着手しました。試作を作り、現場で実際に使っていただいて改良点を提案してもらいました。とくに気をつけたのが、粉じんです。切削機を使うと、どうしても粉じんが発生してしまいます。それを従業員が吸い込んで肺の病気などにならないよう、できる限りの工夫を凝らしました。

 また「海外メーカーの機械では子ども用のインソールを作れなかった。小さいサイズを作れるようにしてほしい」というご要望をいただき、最小12㎝まで製造可能にしました。

 提案と改良のやりとりを何度も繰り返して、ようやく切削機・材料ともに量産可能なシステムに成長しました。その結果、協和義肢製作所の製作環境は大きく変わりました。以前は複数人数で行っていた作業が、今は一人でできます。製作スピードが上がり、1日で2〜3足分しか作れなかったインソールが、10足分も作れるようになりました。そのぶんアナログ作業にかけられる時間や、新しいことに挑戦する時間が生まれ、付加価値が大きくなり、リピーターも増えて、売上が1・5倍に増加したそうです。

 

 それでもまだ、十分ではありません。アナログのみで行っている作業の方が多く、デジタルによって効率化できる部分がまだまだ残っています。たとえばコルセットの製作では、設計はCADで、カッティングも機械でできるようになりましたが、採型と縫製作業はアナログです。患者さんの皮膚の柔らかさや、痩せている・太っているといった体型に合うよう、素材の硬さなどを考慮して製造しなければならず、そうした計算もまだ義肢装具士がアナログで行っています。また、車椅子の姿勢保持用のクッションや、義指の製造も、すべてアナログです。

 アナログでしか作れず、今後は作る必要がなくなる装具もあります。

 ポリオ用装具です。昔は1日に何十足も注文がありましたが、ポリオは数年後には絶滅するため、次の世代の義肢装具士はポリオ用装具の技術を受け継ぐ必要はありません。

 しかしニーズがなくなっても、その技術は新しいニーズに応用できます。

 ポリオ用装具の設計を3Dデータ化し、製作工程もデジタル化しておけば、教える方は伝えやすく、学ぶ方も覚えやすくなります。消えていく技術を残し、次世代に伝達するためのデジタル化も、これから必要になってくるでしょう。

 デジタル化を進めるということは、単純作業を機械化するだけではなく、デジタルとアナログが融合した新しい製作環境を生み出し、相乗効果でより良いものを作っていくということなのです。