求められるのは「価格」より「機能性」

2019/02/08

時代のニーズを先読みし、新しい層をターゲットに、新しい事業に取り組む。これはどの業界でもやっていることです。

 くどいようですが、社会はいま、大きく変化しています。

 そのスピードはこれまでと比較にならないほど早いため「そろそろ本気で経営方針を見直さなければ、会社が危ないかもしれない」などと実感する段階になってから準備をしても、手遅れです。準備が整い、やっと新しい市場に参戦できるころには、すでに競合が顧客を独占しており、入る余地がなくなっているに違いありません。

 その見本となるのが、靴業界です。

 近年、靴の価格は大きく下落しました。中国をはじめ人件費が安いアジアで製造された靴が大量に市場に投入され、1000円前後の価格で出回るようになったからです。

 そうした靴は、とくに若年層に人気があります。安い買い物であるため、長期間はき続けることを前提としていません。そこそこのデザイン性があれば、フィット感や快適性、耐久性などは二の次です。

「靴は安くて当たり前。不具合が出てきたら、さっさと破棄して新しい靴を買えばいい」

 消費者にはそのような感覚が浸透し、さらに大手ファッションブランドがやはり安価な靴の開発・販売を始めたため、零細の靴販売店は大打撃を受け、倒産が相次いでいます。

 しかしそのような厳しい状況下でも、しっかりと顧客を掴み、利益を出して生き残っている靴屋があります。

 その靴屋は、どのような戦略をとっていると思いますか?

 薄利多売を追求する大手企業とは真逆の方向を向き、価格が高いオーダーメイド商品で顧客を掴んだのです。一度掴んだ顧客はリピーターになり、口コミで評判が広がり、安定した売上を出し続けています。

 そもそも中小零細企業が、巨大な資本を持ち世界中でビジネスを展開しているような大企業と同じ土俵で戦って勝つことなど、不可能です。

 薄利多売の土俵で戦うから負けるのです。勝つためには、安い靴を求めている顧客ではなく「多少高くてもいいから、自分の足にぴったりと合う快適な靴が欲しい」と、靴に健康価値を求める層を対象にしなければなりません。

 そうした靴屋の店長はみな、

「これからは、靴を〝売る〟のではなく〝作る〟時代だ」

 と言っています。

 問屋から靴を仕入れて、店の棚に並べて、客に選ばれるのを待っているだけで売れていた時代は終わったのだと、ハッキリ認識しています。

 それだけではありません。

「オーダーメイドは高価で、納品まで時間がかかるのは当たり前」というイメージがありますが、製造工程にデジタル機器を取り入れるなど、納期の短縮とコストカットにも努めています。のちほど詳しくご紹介しますが、この戦略で売上を10倍以上にして支店を増やした靴店も存在します。

 もともと義肢装具士が提供する商品はオーダーメイドのみですが、今後は3Dスキャナーと3Dプリンターの発達により、安価で量産された義肢や装具が大量に市場に出てくる可能性があります。そうなったとき、自分が作るモノにどれだけの付加価値を付けられるか、差別化を図れるかが生き残るためのカギになります。

 それに気付き、会社名を変えてオーダーメイドインソールやオーダーメイドシューズの販売に乗り出した義肢装具製作所も、少なからず存在しています。

 オーダーメイド商品の競争は、先に実績をあげて信頼を勝ち取ったほうが有利になります。顧客との信頼関係が強固であればあるほど、よほどのことがないかぎり他社に奪われることはありません。逆に言えば、出遅れた企業は顧客を確保するために、とてつもない努力をしなければなりません。早めの準備が、勝敗を分けることになるのです。

◎この章のまとめ

・義肢装具業界でデジタル化が進まない理由は「保険適用ではない」「CADの知識がない」「営業ノウハウがない」である。

・保険収入は今後安定するとは言い難いため、デジタル機器を使った製作が保険適応になるよう、訴えることが重要である。

・CADは昔ほど難しいものではなく、セミナーに行けば基礎は簡単に習得できる。

・デジタル化に投資した分を取り戻すためには保険外の事業で利益を出す必要があるが、まずはデータを活用し、保険の周辺アイテムをうまく提案できる能力を身につけることが必要。